1. ブライトリングのブランドヒストリー

1-1. 創業と計器づくりの始まり
ブライトリング(Breitling)は、1884年にスイス・ジュラ地方のサンティミエで創業者レオン・ブライトリングによって設立されました。創業当初は懐中時計やストップウォッチなど、高精度の計測機器を専門に製造していたのが特徴です。「正確さ」と「堅牢性」、そして「実用性」は、当時からブライトリングが重視していた三大要素でした。
19世紀末から20世紀にかけては、自動車や航空機といった新しい乗り物の発展期でした。特に飛行機は、まだ黎明期とはいえ急速な進歩を遂げており、パイロットたちには正確な時間計測や航法のための機器が求められるようになります。ブライトリングはこの潮流を逃さず、パイロット用クロノグラフ(ストップウォッチ機能付きの腕時計)の開発に乗り出し、航空分野に強いブランドとして徐々に地位を築き始めました。
1-2. クロノグラフの革新
ブライトリングが名を馳せたもう一つの大きな要因は、「クロノグラフ(ストップウォッチ機能付き腕時計)の革新者」としての歴史です。
- 1915年: 腕時計の2時位置にプッシュボタンを搭載し、クロノグラフの開始・停止が容易にできるようにした。
- 1934年: 2時位置と4時位置にプッシュボタンを設置し、「スタート/ストップ」と「リセット」を分離。この仕組みは現代のクロノグラフとほぼ同じで、ブライトリングが生み出した大きなイノベーションでした。
こうした実用面の改良は、航空業界だけでなく、自動車レースやスポーツ計時などさまざまなプロフェッショナルシーンで評価を高めるきっかけとなります。そしてブランドは「Instruments for Professionals(プロフェッショナルのための計器)」というスローガンを掲げ、時計を単なる装飾品ではなく「使う道具」として開発する姿勢を貫いてきたのです。
2. ナビタイマー誕生の背景

2-1. 航空計器としての要請
ブライトリングは第二次世界大戦前後から航空機向けにダッシュボードクロック(航空計器)を供給しており、パイロットウォッチの開発にも積極的に取り組んでいました。そんな折、飛行中に必要な計算(燃料消費、速度、距離など)を素早く行える腕時計を求める声が高まります。当時はGPSやコンピュータなどなく、パイロットは地図と計算尺を使って手動で各種計算を行っていたのです。
このニーズに応えるため、1952年に誕生したのが「ナビタイマー(Navitimer)」です。時計の回転ベゼル部分に対数目盛を刻んだ「スライドルール(回転計算尺)」を搭載し、燃料消費率や上昇・降下率、飛行速度などを簡易的に計算できるように設計されました。こうしてナビタイマーは、単なる“時刻表示の腕時計”ではなく、実際に飛行をサポートする“航空計器”としての立場を確立したのです。
2-2. スコット・カーペンターとコスモノート
ナビタイマーが歴史上さらに大きく注目を集めたのは、1962年の宇宙飛行ミッションにおいてです。アメリカの宇宙飛行士スコット・カーペンターが、特別仕様の「ナビタイマー・コスモノート(Cosmonaute)」を着用し、地球周回軌道を飛行しました。このモデルは24時間表記になっており、昼夜の区別がつきにくい宇宙空間でも時刻が把握しやすく工夫されています。
このエピソードはナビタイマーに「宇宙でも活躍した時計」という付加価値を与え、一躍歴史的名作の地位を不動のものとしました。その後もパイロットを中心に、プロフェッショナルだけでなく時計愛好家からも高い支持を集め続けています。
3. ナビタイマーの特徴と魅力

3-1. スライドルール(回転計算尺)
ナビタイマーを象徴するのが、外周ベゼルに施された「スライドルール(Slide Rule)」です。これは元々航空用の計算尺として開発されたもので、
- 燃料消費量の計算
- 上昇・降下率の算出
- 速度・距離・時間の関係計算
など、パイロットが飛行中に必要とする計算を素早く行えるようになっています。現代ではGPSやコンピュータによって航空計算はデジタル化されていますが、「あえて機械式時計で手計算ができる」というロマンと実用性が、ナビタイマーの個性を際立たせています。
3-2. クロノグラフ機能
ナビタイマーはクロノグラフ(ストップウォッチ機能)を標準装備しており、秒針とは別に計時用の針や積算計が配置されています。2つのプッシュボタン(主に2時位置と4時位置)で「計測スタート/ストップ」「リセット」を操作する仕組みは、ブライトリングが確立した現代クロノグラフの基本形の一つです。
この組み合わせによって、ナビタイマーは計算尺で数値を割り出し、クロノグラフで正確に時間を測るという二重の機能を活かすことができ、まさに「計器としての腕時計」を体現しています。
3-3. 視認性とデザインの融合
航空計器としての機能性を突き詰めると、どうしても文字盤の情報量が増えがちになります。しかしナビタイマーは、その“情報量の多さ”が視覚的にも魅力となっている稀有なモデルです。
- 文字盤外周の細かい目盛り
- 3つ(または2つ)のサブダイヤル
- 時分秒針の存在感
といった要素が一体となり、他の時計にはない独特の迫力とクラシカルな美しさを生み出しています。これらの要素をデザイン面でも上手に統合しているのがナビタイマーが長らく愛される理由の一つです。
4. 人気モデル・バリエーション

ナビタイマーには誕生から現在に至るまで数多くのバリエーションが存在しますが、ここでは代表的なモデルをいくつか紹介します。
4-1. ナビタイマー 1 / クラシック・ナビタイマー
伝統的なナビタイマーのデザインを踏襲したモデル群が「ナビタイマー 1」です。いわゆる“クラシック”なスタイルのナビタイマーで、3カウンターのクロノグラフと回転計算尺がセットになった構成が特徴。文字盤カラーとしてはブラック×ホワイトの“パンダダイヤル”が代表的ですが、ブルーやシルバーといったカラーバリエーションも登場しています。
ケースサイズは41mm、43mm、46mmなどが展開されており、自分の手首に合ったサイズを選びやすいのも魅力です。
4-2. ナビタイマー B01 クロノグラフ
ブライトリングが自社開発したキャリバー「B01」を搭載したモデルです。B01はコラムホイール式クロノグラフで、70時間以上のロングパワーリザーブを誇り、高い信頼性と耐久性が評価されています。自社ムーブメント搭載モデルはやや価格帯が上がる傾向がありますが、その分だけステータス性と所有欲を大いに満たしてくれる一本になるでしょう。
また、「日付表示」がつく点や、クロノメーター認定(COSC)を受けていることなど、実用面でも優秀なモデルとして人気を博しています。
4-3. コスモノート(Navitimer Cosmonaute)
前述したスコット・カーペンターが宇宙飛行で着用したモデルの系譜を受け継ぐのが「コスモノート」。24時間表示という非常に個性的な文字盤構成で、レア度も高いためコレクターズアイテムとしての価値が高いモデルです。オリジナルに忠実な復刻版や限定モデルが発表されることもあるので、ナビタイマーファンはチェックしてみると面白いでしょう。
4-4. ナビタイマー 8 / アビエーター 8
「ナビタイマー 8」は2018年に登場した新シリーズですが、後に「アビエーター 8(AVIATOR 8)」という名称に変わりました。伝統的なナビタイマーの回転計算尺をあえて外し、シンプルでミリタリーライクなデザインを採用しているのが特徴です。
クラシックなナビタイマーとはひと味違う、より実用的でモダンなパイロットウォッチを求める方におすすめのラインナップです。
5. ナビタイマーが愛される理由

5-1. 機能美とデザイン美の両立
ナビタイマーの文字盤は、航空計算尺やクロノグラフ積算計など多くの情報を詰め込んでいるため一見「ごちゃごちゃ」しがちです。しかし、それを最大限に活かし「メカニカルで男心をくすぐるルックス」にまとめ上げているのがブライトリングの真骨頂。いわば「計算された混沌」のような、美学と実用性の絶妙な調和が人々を惹きつけています。
5-2. 長い歴史とストーリー
1952年の誕生以来、ナビタイマーは航空業界をはじめ多くのプロフェッショナルに使われてきました。宇宙飛行に携行されたエピソードなどは、時計愛好家にとってたまらない物語性を持っています。ブランドヒストリーや実際に使われた場面を知ることで、着用したときの満足感が一層高まるのも魅力です。
5-3. 高い品質と精度
ブライトリングのほぼすべてのモデルは、スイス公認クロノメーター検定協会(COSC)の認定を受けています。ナビタイマーも例外ではなく、プロユースに耐えうる精度と耐久性を兼ね備えている点はユーザーにとって大きな安心材料。自社製キャリバーB01を搭載したモデルはメンテナンス性やパワーリザーブの長さも含め、一段高い満足を提供してくれます。
6. ナビタイマー選びのポイント

6-1. ケースサイズの検討
ナビタイマーには主に41mm、43mm、46mmといったケースサイズが存在し、かつては44mmや48mmなどのバリエーションもありました。
- 41mm: 比較的小ぶりで、ドレススタイルやビジネスシーンにも合わせやすい。
- 43mm: 最もスタンダードなサイズ感で、ナビタイマーらしさを満喫できる。
- 46mm以上: 視認性抜群で存在感も大。腕が太めの方や、カジュアルシーン重視ならこちらも選択肢に。
実際に試着してみると、想像以上に大きく感じたり、小さく感じたりすることもあります。ナビタイマーは文字盤情報量が多いため、数字上のサイズだけでなく、デザイン全体での印象を確かめるのが大切です。
6-2. ムーブメントの違い
- ETAベースムーブ搭載モデル: 比較的求めやすい価格帯であり、中古市場にも多く出回っている。
- 自社製キャリバー(B01)搭載モデル: 価格は高めになるが、ステータスやパワーリザーブ、メンテナンス性などで優位性がある。
長く愛用したい、あるいは将来的な資産価値にも注目したい方にはB01モデルがおすすめ。一方、ナビタイマーのデザインや機能をまず楽しんでみたいという方はETAベースでも充分満足できるでしょう。
6-3. デザインとカラー
ナビタイマーといえば、ブラック文字盤にホワイトのサブダイヤルが“ザ・定番”ですが、近年はブルー、シルバー、グリーンなどカラーバリエーションも豊富になりました。また、ケース素材もステンレススチールだけでなく、18KレッドゴールドやブラックPVDコーティングなど多様化しています。
ビジネスでの使用頻度が高いなら、落ち着いたブラックやブルーを。カジュアルに楽しむなら、あえて明るめの文字盤やコンビ素材を選ぶのも面白いでしょう。
7. メンテナンスと長く付き合うコツ

7-1. オーバーホール(分解掃除)の周期
機械式クロノグラフは構造が複雑なうえ、ムーブメント内部に油が使われています。3〜5年に一度を目安にオーバーホール(分解掃除)を行うと、精度や耐久性を保ちやすいです。ブライトリング正規サービスセンターまたは実績のある専門店に依頼し、必要な場合はパーツ交換を行うのが望ましいでしょう。
7-2. 防水性能に注意
ナビタイマーは一般的に日常生活防水(3気圧程度)が多く、大きな防水性能は備えていません。洗面所での水ハネや雨程度ならほとんど問題ありませんが、シャワーやプール、海水浴など水中での着用は避けるべきです。定期点検時にパッキン交換や防水テストを依頼し、防水性能を維持するのも大切なポイントです。
7-3. 磁気・衝撃・温度変化
機械式時計は強い磁気や衝撃、極端な温度変化に弱い傾向があります。スマートフォンのスピーカー部分や電子機器の近くに長時間置かない、スポーツやアクティビティで強い衝撃が予想される場面では外すなど、日常から気を配ると故障リスクを下げられます。
8. 中古市場の活用とレアモデル

8-1. 中古ならではのメリット
ナビタイマーは歴史が長く人気モデルだけに、中古市場でも非常に豊富なバリエーションが流通しています。ETAベースのモデルや少し前の限定版などは、新品定価と比べて大幅に安価で購入できる場合もあり、お得感があります。新品だとややハードルが高い方でも、中古であれば手に取りやすいかもしれません。
8-2. 限定モデルやコラボモデル
ブライトリングは世界各国の航空会社やエアライン、軍用機部隊とのコラボモデルをたびたびリリースしています。ナビタイマーの文字盤に特別なロゴが入ったり、ケースバックに限定の刻印が施されたりと、コレクター心をくすぐる要素が多いのです。
こうしたレアモデルは市場で高値がつくことも多いため、興味があればこまめにチェックしてみると、思わぬ掘り出し物に出会える可能性があります。
8-3. 購入時の注意
中古購入時に注意したいのが、「真贋判定」や「改造品の有無」です。人気モデルゆえに偽物やリダイヤル(文字盤再塗装)、パーツ交換品が混在するケースもゼロではありません。実店舗を構える老舗時計店や、大手の鑑定保証付き通販サイトなど、信頼性の高いところで購入するのが安心です。付属品(箱・保証書など)が揃っているかどうかも、購入後の価値を左右します。
9. まとめ:ナビタイマーがもたらす腕時計のロマン

ブライトリング「ナビタイマー」は、1952年の誕生から70年以上にわたってパイロットウォッチの王道として君臨してきた名作です。航空計算尺とクロノグラフを組み合わせた機能性は、もはや実務において必須ではないかもしれません。しかし、その「プロフェッショナルのための計器」という思想と、魅力的なメカニカルデザインは、今なお多くのファンを虜にし続けています。
- 計器としての機能美 回転ベゼルのスライドルールやクロノグラフが一体となった文字盤は独特の迫力があり、パイロットウォッチとしてのDNAを色濃く感じさせてくれます。
- ブライトリングの歴史と革新 クロノグラフの発展に貢献してきたブライトリングだからこそ実現できた高い完成度と信頼性は、実用時計としても優秀です。
- サイズ・ムーブメント・デザインの多彩さ ケース径や文字盤カラー、ムーブメントに多くの選択肢があるため、自分の好みに合った一本を探しやすいのも魅力。
- メンテナンスしながら長く付き合える相棒 定期的なオーバーホールや点検をすれば、何十年にもわたって愛用できるのが機械式時計の醍醐味です。
もしナビタイマーの購入を検討しているなら、まずはサイズやムーブメントの違いを把握し、正規店や時計専門店で実際に試着してみることをおすすめします。腕に乗せた時の重量感や視認性、デザインのバランスなどは写真だけではわからないポイントが多いからです。
そして、ナビタイマーを手にしたあとは、その背景にある「航空の歴史」や「宇宙への挑戦」など、多くのストーリーにも思いを巡らせてみてください。自分の腕元で時を刻む時計が、かつてはパイロットの生命線を支え、宇宙飛行士の冒険を共にしたと思うと、単なる道具を超えたロマンを感じられるはずです。
ナビタイマーはまさに、“時を測る”という行為に奥深い物語と夢を与えてくれる、パイロットウォッチの名作中の名作なのです。